kionachiの日記

中野でコミックやラノベの装丁やテキスト仕事や社長などをしている木緒なちの日記です。

デザインノベル、あと今回のC85冬コミについて

 今年の夏、あまりに自堕落な自分の現況と周囲の活気に満ちた活動の対比に愕然とし、思い切ってコミケのサークル参加に申し込んだ。これまではずっと、半端マニアソフトという同人ゲームサークルでの参加だった。個人での参加はもちろん初めてのことで、応募完了した時の高揚感たるや、まだできてもいない本についてあれこれ想像を巡らせるという、昨日今日コミケを知った中高生のような浮かれっぷりだった。

 大方の予想通り、10月の後半にはコミケという単語を聞くだけで冷や汗をかくようになり、そろそろ迫る当落通知の発送に向け、嫌なことばかり考えるようになっていた。この忙しさの中、常に設置された長期〆切を押しのけるようにして、僕は同人誌など作っていていいのだろうか。これまで、仕事を常に優先してきたからこそ、僕という存在が許されていたんじゃないだろうか。艦これ楽しいウヒーとか言ってるのと段階が違うのだ。あまり調子に乗っていては、本当に呆れかねられない。

 予想は悪い方に当たるもの。初めての個人参加コミケは当選となった。しかも、れー01bである。壁である。端っこである。どう考えても目立つ事この上ないのである。ひとまずツイートを終えた後、ひたすら唸ってどうしたらいいのか考え始めた。

 当選のお知らせがあった11月上旬の段階では、当然ながら本の企画も内容も何もかも完全に白紙だった。印刷所の手配もゲストも何も決めておらず、ただあるのは、ドロップボックスの『個人』フォルダにおいてある『冬コミネタ.txt』というテキストファイルだけである。開いてみると、お前これ何ヶ月かけて作るつもりだというような壮大なネタばかりが書いてある。三ヵ月前の自分に怒りを感じつつファイルを閉じた。

 ともあれ、当選したからには本を作らなければならない。空っぽのスペースに『落ちました』と書いてペーパーでは、来て下さった方にも、そして参加者の皆様にも申し訳なさ過ぎる。企画を考えよう。企画を考えることにした。

 僕の職業はデザイナーとライターだ。つまり、自分で書いて自分でレイアウトができる。この職能を利用して、よくゲスト原稿の〆を2日程延ばしてもらっていたりした。epsファイルで送るからギリまで待って、というやつである。迷惑なこと甚だしい。

 しかし、これが自分の同人ならば、依頼原稿のタイミングさえ間違わなければ、リスクも何もかもすべて自分になる。ギリギリまで待つことができる。それに、レイアウトやデザインをネタにしてテキストを書けば、二つの職能を融合させられる。これしかないわ、と思った。タイトルの所に『デザインノベル』と書いた。タイトルの発想力の無さに再び愕然としたが、いいんだ、こういうのはわかりやすい方がいい。ともあれ方針は決まった。

 この時点ですでに12月の1週目が終わろうとしていた。あと2週間ちょっと、ギリギリまで待ってくれる印刷所様を確保したとは言え、キツいことに変わりはない。この時点で、新規でフィクションを書くのは諦めた。今回は準備号しかない。ならば対談で文字起こしをして、それをレイアウトしていくのはどうだろう。幸いにも、知人にテープ起こしが好きだといういささか変態的な方がいらっしゃった。お願いした。快諾頂けた。

 本の詳細なコンセプトを決める。装丁を凝っている本はたくさんあれど、本文組みにベタベタと手を入れる本はそう見かけない。当然、手間がかかるからなのだけど、ここに踏み込めれば、あまり見ることのない本を作れるかもしれない。何より、自分がそういう工程の入った本を見てみたい。じゃあそれにしよう。本文の内容に沿って、文字組みや書体や色や装飾が変わっていく本。大変だろうけどやり甲斐はある。準備号はそのプレバージョンにして、凝った組みをしている先駆者達に敬意を払いながら、自分はどうするかを考えていく内容にしよう。件のテープ起こしの好きな知人に話し、相手役になって貰った。対談した。テキストが即座に起こされた。ギリギリのところでイラストを加藤たいらさんにお願いした。いつも迷惑をかけてばかりなのに、今回も快諾してくれてありがたい限りだ。素晴らしいイラストが上がってきた。白い表紙にレイアウトし、太めの欧文書体で『DESIGNNOVEL』と打った。そして本文レイアウト。組みを弄り文字を弄り色を弄り、やっとの思いで完成の日を迎えたら、〆切のギリギリ1時間前だった。全身の力が抜けた。校了した。見積もりの値段は見なかったことにした。

  こうして、初めての個人でのコミケ参加は、かなり綱渡りでありながらも、どうにか本番を迎えることができた。ご迷惑をおかけした関係各所、そして協力頂いた皆様には、心からのお詫びと感謝を申し上げます。やっぱり、同人誌作るのって大変だ。仕事と両立して毎回のように参加している作家さんに、改めて敬意を持った。

 

 コミックマーケットC85冬、3日目、西館れー01b、サークル名はコロリメイジ。上述の通りバタバタの中で生まれた本ですが、面白くなったんじゃないかと思います。よろしければ、お目通しくださいませ。48ページカラー、500円です。

 

サークル:コロリメイジ

http://www.kionachi.com/colorimage/